帰りたい場所【side 航輝】

16/37
前へ
/76ページ
次へ
父自ら、そんなことするわけがないから おそらくその役目を堤に負わせたんだろう。 「なぜそんな勝手なことを!」 「煮え切らないお前のためにしてやったんだ。 あんな小娘よりも早穂さんを選ぶに決まってると思ってな」 記憶が戻ったわけではない。 けれど、別荘で過ぎった過去の映像を思うと、怒りと悔しさでわなわなと肩が震えた。 「……何も分かってないですね、父さん」 「分かってないのはお前の方だろう。一時の感情に流されて、まさか婚約しないと言い出すとは。馬鹿の極みだ」 「僕は父さんの駒じゃない。小さな子供でもない。 あなたの自由にはさせない」 「フン、今更反抗か?笑わせる」 「笑っていられるのも今のうちですよ」 もう顔も見たくない、と思って踵を返そうとした時 父の机に置かれた書類が目に入った。 『佐野凪沙についての調書』と書かれている。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

542人が本棚に入れています
本棚に追加