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父自ら、そんなことするわけがないから
おそらくその役目を堤に負わせたんだろう。
「なぜそんな勝手なことを!」
「煮え切らないお前のためにしてやったんだ。
あんな小娘よりも早穂さんを選ぶに決まってると思ってな」
記憶が戻ったわけではない。
けれど、別荘で過ぎった過去の映像を思うと、怒りと悔しさでわなわなと肩が震えた。
「……何も分かってないですね、父さん」
「分かってないのはお前の方だろう。一時の感情に流されて、まさか婚約しないと言い出すとは。馬鹿の極みだ」
「僕は父さんの駒じゃない。小さな子供でもない。
あなたの自由にはさせない」
「フン、今更反抗か?笑わせる」
「笑っていられるのも今のうちですよ」
もう顔も見たくない、と思って踵を返そうとした時
父の机に置かれた書類が目に入った。
『佐野凪沙についての調書』と書かれている。
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