帰りたい場所【side 航輝】

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「何年経ってると思ってるんだよ。もう今更だろ。 いまだに記憶は戻らないし、諦めの境地だよ」 苦笑いで返した。 「じゃあ、今更ついでに……」 そう言って、堤はスーツの胸元からカードケースを取り出し、そこから一枚、名刺サイズのカードを抜いて僕の机に置いた。 「何だ?」 カードには【シーサイドカフェ 】と飲食店らしき店名などが書かれていた。 「そこな、カレーが美味いんだよ。海の近くでさ。 今頃はもう、海の家なんか出してる時期だったと思うが……椎名がよく行ってたんだ」 「僕が? 」 海なんて普段行かないのに? あ、でも……確かあの頃は仕事の関係で別荘に泊まり込んでた時期だったらしいから 近くの海を眺めに行くくらいはしてたかもしれない。 「一息入れてもいい頃だろ。リフレッシュに行ってみたらどうだ? 記憶の手がかりもあるかもしれない」 本当に何を今更こんなことをと思ったが、 堤もずっと気になっていたのだろうか。 思い出してもきっと辛いだけだ、と言っていたのに。
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