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別荘へ行ったのは夕方に差し掛かる頃。
ここへ来たのは、事故後あの一回きりだった。
自分のケリがつくまで来てはいけない気がしたからだ。
それでも、中でくつろぐ気持ちが湧かずに、荷物だけ置いてすぐ車へ戻った。
少し車を走らせた先に、海があったはず。
昔来てた頃の記憶を手繰り寄せてハンドルを切った。
すぐに海が見えてくる。
海岸沿いを走らせながら、途中にあった駐車場に車を止めて、僕は歩いた。
海水浴場が近くにあり、夕方とはいえ人で賑わっている。
喧騒の中、ザァーン、と波が押し寄せる音を聴きながら沖の方を見つめると、水面がキラキラと煌めいて夕焼け空がそれをさらに引き立てていて、綺麗だった。
知らず知らず緊張していた気持ちが穏やかに凪いでいくのを感じる。
砂浜へ降りる階段を見つけて降りていき、側にあったテトラポットに軽く背中を預けて、瞳を閉じた。
ひどく懐かしい潮の香りがした気がした。
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