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驚いて目を見開いているともう一度、「大丈夫?」と心配そうに覗き込んでくる。
気付けば汗ビッショリで、多分顔色も悪くなっていたのだろう。その少年がペットボトルの水を差し出してくれた。
「…ありがとう。……これ、いいの?」
少年はコクリと頷いて、
「大丈夫。さっきおかーさんトコから貰ってきたばっかだから」
にこっと安心したように笑った。
その笑顔を見て、ドクン、と鼓動が激しく鳴り始める。
苦しくなる胸を思わず押さえて、僕はその子の顔をマジマジと見つめた。
今度は違う汗が背中をひやっと伝っていくのを感じる。
「……ちょっと待って。まだ頭が」
ドクンドクンドクンドクン、とまるで頭が心臓になったみたいに忙しなく痛みが襲う。
さっきのこの子の笑顔が、誰かに似ている気がした。
誰かって…………
頭の中がめまぐるしく回転していく。
グルグルぐるぐると最近の出来事から昔の思い出、いろんな情景が浮かんでは消えていく。
そして、頭痛が止んだかと思うと
まさしくフラッシュが焚かれたかのように
突然ある人の笑顔が弾き出された。
目の前にいる少年とよく似た面差し。
日焼けした少し浅黒い肌。
向日葵のように明るい笑顔。
今まで何度も見た、失われた記憶のかけらが
パズルの最後のピースが見つかったようにピッタリと僕の頭の中ではまっていく。
ーーーー凪沙だ、と。
全てが繋がった瞬間、
呼吸が止まったかと思った。
それにこの少年は、もしかしたらあの時の……?
じわじわと熱いものが腹の底から迫り上がる。
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