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「頭痛いの? 冷やすの持ってきてあげるよ」
そう言って一旦去りかける男の子を、声が引き攣れそうになりながら、かろうじて「待って」と呼び止めた。
「水もらったし、大丈夫だから。
……お母さん近くにいるの?」
突然僕が現れたら彼女はどんな反応をするだろうか。
拒否される可能性が高いよな、と先ほどから騒ぐ心臓を落ち着かせるのに僕は必死で自らを落とし込む。
「うん、あっちの方にある海の家にいるよ。
ねぇ、立てるならそこ行く?休めるよ。うちのおかーさんがやってるお店だから」
「……いや、大丈夫。
そのお店って、普段は街でカフェやってたりする?」
「うん! なんで知ってんの!?」
目をまん丸くして驚いた顔も
この子と会うのは初めてだというのに懐かしい。
「昔、行ってたことあって。君の顔がそのお店の人によく似てるから……」
「おかーさん? 」
「……うん、多分ね。後でカフェに顔出してもいいかな?お礼したいし」
「いいけど、今日定休日だよ」
「残念、じゃあカレーは食べられないな」
うまく笑えてるだろうか。
はっきり言って自信はない。
泣きそうなのを堪えるので精一杯だった。
「おかーさんのカレー、好きだったの?」
「…っ、あぁ。大好きだったよ」
カレーはもちろんだけど、君のお母さんのことが
大好きだったんだ。
そう言ってしまいそうなのをグッと堪える。
この子にそんな事を言ってはいけない。
新しい家庭があるかもしれないのに、不用意なことは言ったらいけない。
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