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そんな葛藤をしている中、男の子はやけに嬉しそうな顔をして瞳を輝かせ始めた。
「僕もおかーさんのカレー好き!
他の人には絶対言うなって言われてるんだけどね、
おかーさん、おとーさんのためにカレー切らさず店に置いてるんだって」
「…….お父さん、カレー好きなんだ」
「うん、僕と一緒!!
でも僕はおとーさんと会ったことないんだよね。遠いとこに行っちゃったらしくて」
嬉しそうにしていた瞳が、ふと寂しそうに揺れて
ぐ、と言葉に詰まる。
「だから、いつ帰って来てもいいように作ってあるんだって。ナイショだよ?」
それでも、しー、と人差し指を立てて得意げな顔をするその子の話に、胸が熱くなった。
新しい家庭があったら、今みたいな一瞬淋しそうな顔は見せないだろうと思う。
しかも、いつ帰って来てもいいようにってことは……
都合の良すぎる解釈だと自分でも思うけど、待ってる、ということじゃないのか?
「……わかった。内緒な」
「うん。だから、来てくれたら出せると思うよカレー!」
「そっか。……じゃあ、ここで僕と会ったこと、お母さんには内緒にして。驚かせたいから」
「オッケー!!男の約束ね!!」
男の子は、にしし、と笑って背筋を伸ばした。
「そうだ、君の名前は?」
「僕? 勇輝!
佐野 勇輝! 」
ぶわっと熱いものが瞳に溜まる。
きっとそうだ。
この子は、あの時のーーーー
僕の子だと確信して、思わず両手で自分の顔を覆った。
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