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「どうしたの? まだ頭痛い?」
僕は声を出せないまま、ふるふると首を横に振った。
「……ごめんな」
「え?何が?」
きょとんとした声を出す勇輝くんの顔が
申し訳なくて直視できなくなる。
「あとで行くよ、お店に。
暗くなってくるからそろそろ戻りな」
勇輝くんの問いかけには答えず、僕はそれだけ告げた。
「うん、わかった。絶対来てね!」
声を弾ませながら、勇輝くんは僕を背にして走り去って行った。
「…………参ったな」
凪沙がひとりであの子をここまで育ててくれていたなんて。
もっと早く記憶を取り戻せていれば、と
悔やんでも悔やみきれない。
交わることのなかった僕達の長い長い時間を
どうしたら埋めることが出来るんだろう。
あの子にも、父親がいない事で寂しい思いをたくさんさせていただろうと思うと、胸が痛すぎて引き千切れそうだった。
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