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決意を固めたものの、いざ店の前まで来てドアノブの前で躊躇して手が止まった。
掛けられた看板には【CLOSED】の文字。
これと同様、凪沙の心も閉じられたままで、また僕に開いてくれることはないかもしれない。
そう思うと、情けないけど緊張で手が震えそうになる。
それを振り払うように、ふぅ、と大きく深呼吸をして
僕は今度こそドアノブに手をかけた。
ゆっくり開けると軽快に鳴り響くカランカラン、というベルの音。
この音すら懐かしくて、鼻の奥がツンとしてくる。
と同時に、僕の胸はドキンドキンとひたすら早鐘を鳴らし、それはもう、口から飛び出るのではないかという程、やかましかった。
そして、開いたドアの先、奥の方に見えるカウンターに目をやると
少しウェーブのかかった髪をゆるくアップにしている女性が、まるでスローモーションのようにこちらを振り向くのが見える。
僕は完全に店の中へ身体をねじ込み、背中越しにドアが閉まる音を聞きながら、彼女へ向けて口元だけ微笑みを作って浮かべた。
ーーーー彼女のつぶらな瞳が、僕を捕らえた瞬間
大きくそれが見開いて固まったのを僕は見逃さなかった。
彼女はきっと僕に気付いてくれたんだろうと確信しながら、ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめるように近づいていく。
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