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互いに沈黙したまま、僕は距離だけ少しずつ縮めていった。
昔よりも綺麗になった凪沙の顔をじっと見つめながら、
どうして僕はこんな大切な記憶を失っていたんだろうと心から思った。
あんなに愛していたのに。
思わず熱くなった目頭を押さえて俯いた。
勇輝くんのおかげで取り戻せた、というのも
奇跡としかいいようがない。
彼と出会ってなければ今も僕は記憶を求めて彷徨っていたかもしれない。
そして、諦めていただろう。
僕が姿を消してから、彼女たちがどんなに大変な思いをしたか考えることもなく。
ぎゅっと瞼に力を込めてからゆっくり目を開き、僕は再度凪沙を見つめた。
そして、何年振りになるのかーーーー
愛しい彼女の名前を、気持ちを込めて、呼んだ。
「…………凪沙」
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