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しかし、彼女の肩の震え方で、泣いているのだと分かった。
両手に顔を埋めて必死で声を押し殺している。
そんな彼女を見ていたら、今すぐ抱きしめたいほど、熱い感情のうねりが腹の底から押し寄せた。
けれど、それを許してもらえるのかと一瞬怯み、出し掛けた腕を力無く落とす。
その瞬間、彼女は既に涙でグチャグチャの目元を指で一生懸命拭いながら
僕に向かってにっこり微笑んだ。
「……おかえりなさい」
彼女の優しすぎる言葉に、僕の胸は愛しさと嬉しさで撃ち抜かれ、その衝動のまま、先程降ろした腕を伸ばし、ぎゅうっと固く凪沙を抱き締めた。
柔らかな感触と彼女の温もり、うなじから漂うような甘い香り。
そうだ、僕はこの抱き心地を知ってる。
彼女の存在を今一度、確かめるように髪を撫でつけて
頬を頭にピッタリとくっつけた。
凪沙も同じ気持ちなのか、僕の背中に腕を回して、強くしがみついてくる。
ありえないだろうと思っていたのに
紛れもなく、凪沙が
僕の腕の中に戻ってきてくれていた。
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