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潮騒が聴こえる
お店のテーブルを拭いていた陽射しの暑い朝、カランカラン、とドアのベルが鳴り来客を告げる。
「はーい」
そう言いながら手を止め顔を上げると、そこには見知った顔があった。
「なんだ、陸か」
「なんだとは何だ。野菜届けに来たっつーのに」
「ごめんごめん。ありがと」
陸は幼なじみだ。
彼は農家で、わたしの親が経営しているこの海辺のカフェにいつも新鮮な野菜を届けてくれる。
「もうすぐだな。海の家オープン」
「うん」
「……来るといいな、客」
「そうだね」
陸が言わんとしてることがなんとなく伝わる。
客というのは、ある人のことを指してるんだろう。
「……今年も待ってんだろ?あいつのこと」
言いにくそうに尋ねてくるその瞳には、どことなく悲哀感が漂っている。
「まさか。何年経ってると思ってんの?」
軽く笑い飛ばしながら言ったけれど
陸の“今年も”という言葉に、毎年そう思われてたんだなと苦い気持ちが広がる。
わたしはどこかでまだ、夢を抱いているのだろうか。
ジリジリと胸の奥が痛む。
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