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1.仲直りはいつの日か
小さな部屋の中は、とても静かだった。
一人の少年が、窓辺に肘をついて外を見ている。年は十ばかり、銀というより白に近い透き通るような髪に、きらきらとした青い目を持つ。その眼差しはどこかぼんやりとしていて、実に眠たげであった。
唐突に、静かな部屋に声が響く。
「今日はお客様がいらっしゃると思います」
そう言葉を発したのは、人ではない。椅子の隣の止まり木に腰を下ろした、一羽の九官鳥である。少年は聞こえている様子もなく、依然として窓の外を眺めている。
「旦那様、聞いておられますか?」
九官鳥の流暢な問いかけにようやく気付いた少年は、振り返って尋ねた。
「え、なに?」
「今日はお客様がお見えになるかもしれないと言っているのです。まったく、これだから考え事をしているときのあなたは……」
「ごめんごめん。ここにお店を構えてもう三日経つのに、誰も来ないなあと思ってちょっと落ち込んでただけ。そっか、ようやくお客が来るんだね!」
さっきとは打って変わって楽しげな様子の彼に、九官鳥はほっと胸をなでおろす。
「ハルの勘はよくあたるからなあ」
「それほどでもございません。ですがその前に……」
二人はそろって部屋の中を見回す。埃のつまった狭い部屋は、散らかり放題だった。山積みの本は雪崩を起こしそうだし、床はよくわからない書類で足の踏み場もない。棚の中の一見ガラクタに見えるたくさんの器械も、整理されないままになっている。
「この汚い部屋見たらびっくりするね、お客」
「そうですね。いつのまにこんなことになってしまったのやら」
少年は立ち上がり、腕まくりをして、意気揚々と言い放った。
「よし、掃除しよう。手伝ってよ、ハル」
「九官鳥に部屋の掃除をさせるおつもりですか」
暖かい日差しが降り注ぐ、穏やかな午後のことだった。
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