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「彩花ー、このあとあそび行かない?」
授業の終わった教室で教科書を片付けていると、誘いの声がかかる。
「あー、私……今日はいいや。パスで」
「そう? じゃあまた今度ねー」
まずはカラオケにしようよ、とはしゃぎながら出て行く友人たちを横目に、私はため息をついた。今は遊びに行く気分じゃない。
重い足取りで校門を出る。びゅうと風が吹き、短いスカートがはためく。三月とはいえまだ肌寒く、ブレザーは手放せない。生徒たちの群れに混じって、ゆっくりと道を歩いた。
あと何日かで三学期が終わり、終業式と卒業式が私たちを待っている。三年生は卒業していき、四月になれば私は中学二年になる。レールの上を歩いているような、そんな決まりきったこと。
でも、昨日私は、予定になかったことを知ってしまった。
だいぶ人通りも少なくなった横断歩道で、信号が青になるのを待つ。私の家は通っている中学から近い。
そう、彼女の家からも。
反対側の歩道を、見覚えのある一人の少女が右から左へと歩いていくのが目に入った瞬間、私は固まった。長い三つ編みに、丸い縁の眼鏡。私の学校のとは違う制服。
その表情は、どこかさみしそうにも見えた。
(奈津)
信号が赤から青になっても、私の足は動かない。いや、動けないのだ。奈津は反対側の私に気づかず、自分の家の方へと歩いて行ってしまった。
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