第1章

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「これで、ヒロコちゃんの知らない人間が犯人という可能性は消えた。小学生の交友関係で、母親が知らない相手というのは同世代の友達くらいだろうが、イチカくんと同世代の友達がカブトムシを何回も買うのは金銭的に無理だろう。つまり、犯人はヒロコちゃんが息子の話をする関係にある大人だ」 「ということは、両親と近所の人を除外すると、私みたいな学生時代の友達や職場の同僚、あとは……親戚の叔父さんかな。ヒロコちゃんの叔父さん、別荘の管理会社に勤めてるんですけど、イチカくんをとても可愛がってくれているとか。あ、でも、可愛がってるんだから、イチカくんがカブトムシを好きじゃないって知ってますよね」  指折り容疑者を数えながら、奈津子は言った。 「そうだな。犯人は直接イチカくんを知らない可能性が高い」 「それにしても、届けすぎじゃないですか?」 ソファに戻った巡が言った。 「届けすぎ?」  草鞋が片眉を上げる。 「カブトムシなんか、ひと夏に一匹二匹飼えば十分でしょう。四匹も貰ったって、夏が過ぎれば死んでしまう。多く貰って嬉しいものじゃない」 「そういうものかね?」  草鞋は首を傾げた。 「マニアなら嬉しいでしょうが、聞くと違うし。それに、生き物を何匹もあげ続ける動機なんて、考えるとちょっとぞっとしますね」 「そうか」  草鞋は顎に手を当てた。 「嫌がらせ、という可能性もあるな。一見子供を喜ばせようとしているようで、実は、と」 「わざわざお金をかけて?」  奈津子が首を傾げる。 「一考の価値はある。カブトムシを届けられて、ヒロコちゃんの家にどんな影響があったか、わかるかね?」 「そりゃ、カブトムシを飼う羽目になって、餌代がかかって、スペースが必要で……そんなものじゃないですか」 「カブトムシがいるおかげで冷房代がかかるとか、外出できなくなったとかもありそうですね」  巡が口を出す。 「外出できない……。そういえば、カブトムシを発見した朝は、予定が変わってしまって困る、という話を聞いたわ」 「予定が変わる?」  奈津子の言葉の続きを草鞋が促す。
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