第1章

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「夏休みはヒロコちゃんが仕事に行ってる間、イチカくんをヒロコちゃんの実家に行かせるんだけど、カブトムシが届けられた朝は、気持ち悪いからヒロコちゃんの部屋にご両親を呼んで、一緒にいてもらうそうなの。息子を外に出すのが不安なのね。でも、ご両親は実家で鍵屋を経営してるから、その日はお店を締めなくちゃいけない。それが困るって」 「確かに。鍵屋なんて緊急の用事で行くことが多いから、できれば二十四時間開いてもらいたいくらいなのに」  巡も同意する。 「叔父さんに店番を頼んだりもしているみたいだけど、カブトムシが届けられるのがいつかなんて、予想できないものね」  「そうですね、予想できるのは季節が夏ってことくらい」 「そうか、夏か」  草鞋が言った。開け放たれた窓から熱風が来る。オバケ扇風機が空しく回る。 「夏は父冨に観光客が来る、別荘の住人も来る、住人が来たら気づく、気づいてまず呼ばれるのは警察よりも……」  草鞋は置いてけぼりの所員二人を尻目にスマートフォンを取り出した。電話する先は父冨警察署。 「ヒロコちゃんの様子はどうかね、無事にカブトムシの謎が解けたわけだが」 「落ち込んでます。イチカくんにどう言っていいかわからないって悩んでますし」  数日後、出勤してきた奈津子に草鞋が尋ねると、奈津子は物憂げに首を振った。 「まさか、ヒロコちゃんの叔父さんが空き巣の常習犯だったなんて。それも、ヒロコちゃんの実家の鍵屋の店番を、証拠隠滅に利用してたなんて」  草鞋は自分で麦茶のポットを冷蔵庫から出すと、コップ二つに注いだ。 「カブトムシを届けていた理由は、兄の鍵屋に自分が泥棒した別荘の持ち主が鍵の修理を依頼するから、その依頼を自分で受けるためだ。兄夫婦がいると邪魔だった。 夏休みに別荘を訪れた持ち主は鍵が壊れていることに気付く。だが、まだ泥棒が侵入したことには気づかない。そこで鍵の修理のために、連絡が店番中のヒロコちゃんの叔父のところへ行く。彼はそのまま鍵屋のふりをして鍵の修理を行い、鍵に残っていた証拠を隠滅する。鍵の開け方の個性で犯人が特定されることが多いからな。中に入った住人が泥棒の痕跡に気付いても、鍵に残っていた筈の証拠はなくなっているから、捕まる確率は減少する」  片方のコップを奈津子に差し出して、
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