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食べかけのチョコバナナを手に彼女がゆっくり立ち上がった。浴衣のすそを直しながら、低いテンションで目元をぬぐう。
彼はその手をつかみ、代わりに頬を拭いてやるとこういった。
「離れるなよ」
びっくりしたような顔で見上げてくる彼女の瞳をじっと見た。照れくさくても、もう視線を泳がすことはない。
彼女は無言でうなづいた。見慣れた笑顔がそこにはあった――。
この町のすべてを呑みこみ、夜のとばりが降りてくる。蝉の声、祭囃子にひとの波。オレンジ、赤、黒、藍に白。チョコの匂いと甘い言葉と。
月にゆずった主役の座。日はまた昇る――つづいてく。
夏の夜空に大輪咲いて、その場にいた誰もが笑顔でうえを向いていた。
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