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* * *
「もうっ! まったく皐月ったら!」
いちかはプンプンと怒りながら階段を上がっていく。
『あのさ、頼みがあるんだけど』
そう切り出した担任は『そろそろSHRの時間になるしさ、屋上にいる高嶺、起こしてきてよ』と手を合わせながら片目を瞑った。
聞けば、生徒は立ち入り禁止の屋上の鍵を担任から無理やりカツアゲの如く取り上げ、呑気に寝息を立てているらしい。
(うう。向こうでリニューアルして帰ってきたからって悪い方向に新しくならないでよ)
いちかは『一度まっさらにして。次会ったとき、いちかに、変わった俺を見て欲しくて……っ』と健気に語っていた皐月を思い出し、ため息を溢す。
解錠されているであろうドアノブに手を掛け、勢いよく屋上のドアを開け放った。
「皐月!」
風が吹き抜けスカートを揺らす。
担任の言うとおり、皐月はカバンを枕に瞼を閉じていた。
いちかは眉を下げ、まったく、と息をつきながら皐月のおでこを優しく叩く。
「こぉらっ」
「いてっ」
眉間に皺を寄せた皐月が大袈裟に額を押さえながらうっすら瞳を開ける。
しかし目が合うと「……なんだ。いちかか」と呟き再び瞼を降ろすと、寝返りを打った。
そんな皐月の反抗的な態度にいちかの眉毛はピクピクと上がる。
「起きろ! 皐月っ!」
言いながらいちかはカバンをおもいきり引き抜くと、皐月の頭がゴンッ! と鈍い音を立て広い屋上に小さく響いた。
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