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「コレ貸してやるからタバコ吸ってたこと黙っててくれって頼まれたんだよ」
あぐらをかいた皐月がぶすくれた表情でズボンのポケットから屋上の鍵らしきものを取り出し見せると、後頭部を擦りながら言う。
屋上前の踊り場。そこが皐月の見つけた心落ち着くお気に入りの場所らしく、朝のSHRが始まるまでの間、よく時間を潰しているらしい。
今日も登校してから教室前を素通りして定位置で居眠りをしようとしていたところ、いつもは閉まっている屋上のドアが半開きになっており、興味本位で覗いた…………結果。
担任が気持ちよさそうにタバコを吸っていた現場に遭遇した、というわけだった。
(あの適当おちゃらけ担任め! 何が脅された、だ)
怒りに身を任せ皐月の隣に腰を下ろすと、いちかは仰向けになって転がる。
視界いっぱいに青空が広がって案外気持ちいいものだ。
「呼びにきたんじゃないの?」
「チャイム鳴る前に戻ればいいんだよ」
「いや。もう鳴ってるけど」
「えっ!」
横たえたばかりの身体を慌てて起き上がらせる。
無実の皐月に罪を着せた担任へ、教室に帰ったら何て言ってやろうか。意識を集中させていたらチャイムの音が耳に入ってこなかったみたいだ。
まだ鳴っている、いつもよりちょっと遠くから聞こえるチャイムの音に、段々焦るのもばからしくなってきた。
「いいよ。SHR終わったら戻ろう」
再び寝転がり目を瞑ったいちかを皐月は意外そうに見つめた。
「……サボったりするんだ」
「ん?」
「いや……」
皐月の反応にいちかはクスリと笑うと、皐月のズボンの裾をちょこんと掴んだ。
「今日は特別」
いちかは目を開け皐月を見上げると、イタズラが成功した子供のような顔で笑った。
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