幼馴染

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(そういえばあのとき、何て言ったんだっけ?)  新学期を迎え、今日高校二年生になったばかりの花咲(はなさき)いちかは懐かしい思い出に浸りながら成長したかつての幼馴染の姿を想像していた。 (美少年……なのは確定でしょ?)  きっと優しい紳士になっているに違いない。 「……おい」  いや、やっぱり泣き虫のままだろうか。  目の前の受け入れがたい現実に目を逸らしながら、いちかの中でみるみる端正な顔立ちの少し繊細な美少年が出来上がっていく。  数年ぶりに天使――高嶺皐月(たかみねさつき)が日本に帰ってくる。そのうえ何と! いちかの通うこの学校に転入してくるというではないか。  もしかしたら偶然に偶然が重なって同じクラス、なんてことも起こりうるかもしれない。 「……おい」 「成長してとうとう真っ白な羽が生えてたりして」 「おい」 「それで窓から『いっかちゃーん』って」 「逃避してんじゃねーよ」  席に座ったままいちかは視線だけを上に向ける。  黒のカーディガンを羽織り、シャツのボタンを上から三つも外して隙間から素肌をチラ見せさせた男と目が合い、否定するように首を左右に振った。 「いや違う。まだ天使は舞い降りてない」 「わけわかんねーこと言うな」  男はため息をつきながら机に片手を付け、もう片方の手でいちかの乱れた髪に指を通し耳に掛ける。 「綺麗になったじゃん。いちか」  美少年は美少年、だけど……。 「わかった。別人だ!」 「…………」 「私のかっわいい天使は他クラス行っちゃったのかな~」 「会わない間に随分とバカになったみたいだな」  マジか、といわんばかりに寄った転入生の眉間の皺に、心の中で「こんなの、皐月じゃなーい!」なんて叫んでみても現実は変わることはなく。  天使だった幼馴染は時を経て、どちらかというと魔族寄りになって帰ってきたのであった。  ――【完】
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