彼氏

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 目を輝かせた皐月が汚れなき眼で見つめてくる。  そんなに喜ばれると思っていなかった。 「え、あ、う」  予想外の皐月の食いつきように先程とは違う動揺と照れくささがいちかを一斉に襲う。 「れ、練習っていうか」 「練習?」 「う、うん。先輩に作ってあげる約束してて。だから上手く出来るかわからないんだけど、でもその」  気がつけば口が勝手に動き出していた。  若葉も皐月の体調気にしてたし、と訳わからない順序で走り続ける言葉は自分の意思では止まらない。 「一生懸命作るっ! けど、お腹壊したらごめん!」  息切れしそうな勢いで喋り続けたいちかは言い終わると、後悔が後ろから追いかけてくるのを感じた。 (や、やっちゃった!)  自分でも思う子供っぽさ全開の照れ隠し発言に皐月はどう思っただろうか。  嫌な汗が流れる。 「あ、あのね。それでもいいなら……」 「――バーカ!」 「皐月!?」  言い捨てると立ち上がった皐月はスタスタとドアに向かっていく。  その後を慌てて追いかけるいちかに皐月は屋上の鍵をふわり投げ渡した。 「犠牲者は愛しの彼氏様だけにしてください」  ベッ! と舌を出した皐月は捨て台詞のような言葉を残して屋上から出て行ってしまった。  残されたいちかはその場に佇み空を見上げる。 「だから実験台はどうかなって思ったんだよー。若葉様~~」  提案者の若葉へ向け、ひとつ息を吐くといちかは急いで皐月の後を追いかけた。
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