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「皐月ー! 待ってよー!」
小走りで呼び掛けるが、皐月の足は止まらない。
誰だって練習台やら実験台なんて言われたらいい気はしないだろう。おまけにお腹を壊すようなものを押しつけられるところだったのだ。皐月が怒るのも当然である。
「皐月ってばぁ!」
しかし本当はそんなことが理由で怒っているわけではないのだが、いちかには相も変わらず伝わらない。
「皐月っ、ごめんね! あの、私、謝るから、止まってよ~」
必死で謝ろうと追いかけてくるいちかに、皐月は段々自分の行動が大人げないような気がしていた。
立ち止まって「怒ってないよ」と笑顔を向けてあげてもいいのだが…………。
(なんか、追いかけられるのっていいな……)
そんな身勝手な満足感に少しでも浸っていたいという思いが勝り、いじわる心全開なのが現在の皐月だった。
(どうしよう。皐月、めちゃくちゃ怒ってる~~)
一方いちかは半泣き状態だ。
無言の皐月の背中が絶対に許さない! と訴えているように思えてならない。
そんなに怒らなくても、と思う反対で、私が悪かったんだから、と足を動かす。
その時。
「花咲?」
不意に後ろから声が追いかけてきた。
「――先輩!」
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