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振り向くと立っていた人物にいちかの足は止まる。
「どうした?」
「いや、ちょっと……」
苦笑い気味のいちかに杉先輩は不思議そうな顔を返してくる。
廊下にはまばらだが他にも人がいて。上履きに入ったラインの色が全員赤いことから三年生の廊下で追いかけっこをしていたことに今更だが気が付いた。
上級生の廊下で騒いでいたのかと途端に慌てだすいちかを落ち着かせるように、ぽすっと大きな掌が頭の上に優しく乗っかった。
「なんか騒いでる迷子がいるなあと思って見たら花咲だった」
笑いながらグリグリといちかの頭を撫でる。
「……もう。迷子じゃありません」
「はいはい。いちかちゃんはこう見えて高校二年生ですもんね~」
うりゃうりゃとじゃれてくる杉先輩に表向きは嫌がりながらも内心はお花畑状態だ。
年上の先輩と対等になりたくて、恋人になった今でも必死に背伸びを頑張っていても、やはり子ども扱いで。一歳しか違わないのにと頬を膨らませてみても扱いは変わらない。でもそれが嬉しかったり、時に切なかったり。恋する乙女心は複雑だ。
「先輩あのね……」
「――いちか!」
遠くから呼ばれ振り向けば行ってしまったと思っていた皐月が足を止め、こちらを見つめていた。
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