彼氏

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 あの日から数日。  隣の席に座る皐月は相変わらず不機嫌だった。  原因はやはりお弁当の実験台にされそうになったことだろう。ため息をつくいちかに若葉は『気にすんな』と肩を叩いた。彼女に罪の意識はないらしい。  若葉に言われたからという訳ではないが、いちかも最近、皐月のむすっと顔には慣れてきたのか、その内あまり気にならなくなってきていた。というより別のことに気をとられていた、という方が正しいのか。  そんな今日この頃。 「ねえ。今更校内案内とか必要なくない?」  皐月の後頭部に向かっていちかは言葉を投げる。  放課後。下校しようとしていたいちかの机に突然片手を付いた皐月が「校内案内してよ」と頼んできた。  いちかは話しかけられたことが嬉しくて二つ返事で了承したのだが、案内をしている現在。皐月はいちかの前を歩いている。 「クラス委員長様。職務怠慢ですかー?」 「…………」  そう言われてしまうとぐうの音も出ないのだが。 「もう一通り授業で教室移動したはずだからつまんないと思うよ?」 「じゃあ行ってないところ教えてよ」  尤もである。 (でもせっかくだから端から端まで案内してあげようと思ったんだもん)  だが、こうも先をすたすた歩かれてしまえば一つや二つの文句ぐらい言わせてほしいものである。 「皐月。何考えてるかわかんない」 「……俺もだよ」  独り言を拾われ、いちかは顔を上げた。  窓の外を眺める皐月の横顔はやっぱり何を考えているのかわからなかった。
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