988人が本棚に入れています
本棚に追加
/144ページ
好きだった。
優しい先輩も。じゃれて笑う眩しい先輩も。子ども扱いして頭をクシャクシャって撫でてくれる先輩も。みんなみんな。大好きだった。
言わないけど、本当はね。あの人を追いかける切なげな横顔すら好きだったんだよ。
「ねえ、先輩? 最後にお願い、聞いてくれませんか」
くいっと顔を上げ、いちかは杉先輩を見つめる。
先輩は逸らさず受け止めてくれた。
「名前、呼んでほしい」
いつも呼んでくれる『花咲』でもなく。からかうとき限定の『いちかちゃん』呼びでもなく。
ずっと。本当は……。
「いちか」
杉先輩の声は温かい雫となって心に溶けていく。
これだけで、充分だ。
「……なんだ」
――充分幸せだ。
「思ったより、全然ときめかないやっ」
今できる精一杯の笑顔でいちかは笑った。
最初のコメントを投稿しよう!