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いちはやく皐月のことを母に問いただしたい一心で学校からノンストップで道を駆け抜け、「ただいま!」と息を切らせながらリビングの扉を開けたいちかの目に映ったのは母ではなく、ソファーで寛ぐ皐月の姿だった。
「おかえり。いちか」
「…………」
ニコッと笑って手を挙げた皐月の笑顔は昔と変わらず天使級に可愛らしいものだったが、いちかの口は間抜けにもぽかんと開いたまま。
(な、何で? え、だって)
――先に学校出たの、私だよね!?
どういう訳か、後から出たはずの皐月の方が早く着いている。途中、追い抜かれた記憶もない。
元天使はとうとう瞬間移動でもできるようになったのだろうか。いや、羽? やっぱり白い羽でも隠し持っていて、飛んで帰ってきた? あ、でも今は魔族系になったんだっけ? じゃあ暗黒色の羽か? コウモリみたいな羽か? いやいや。皐月は人外じゃないって。などなど。固まったままのいちかの内心は大騒ぎ。
そんないちかを見て、皐月はほんの少し複雑そうな表情を覗かせたが隠すように冷えた麦茶に口を付けた。
「あら、いちか。お帰りなさい。……どうしたの? そんなところに突っ立って」
「……おかあさ~ん」
「ごめんなさいね~。こんな物しかなくって」
助けを求める娘をスルーして、皐月の前にあるテーブルに母は嬉しそうにカステラを載せたお皿を置いていく。
(母よ。そのカステラはどこに隠し持っていたんだい?)
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