第1章

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 河岸は真っ暗で、背の高い雑草が黒い波のように風に揺れるばかりだった。 「本当にここにいるのか?」  片手に懐中電灯、片手に長い鉄の棒を持ってなーさんが言う。なーさんというのはもちろん本名ではなく、ハンドルネーム。俺を含め、今ここにいる三人は、とあるサイトで知り合って、今日初めて顔を合わすのだ。お互い本名は知らないが、それに不満も問題もない。 「間違いないよ。昼間ちゃんと見たんだから」  そういう俺の手には、大きなナイフが握られている。いつか試し斬りしたいと思ってはいたものの、今まで機会がなかった物だ。まさしく今宵の虎鉄は血に飢えておるわ、という感じ。 「この先にいるんだろ? 気づかれないように明かりを消した方がいいんじゃないか?」  アマミのナイスな提案で、俺達は懐中電灯やらスマホの懐中電灯アプリやらの明かりを消した。  幸い、月は明るいので足元がまったく見えないというわけではない。できる限り音を立てずに歩こうとしたけれど、この雑草ではあまり意味のない努力だった。  ふいに開けた場所に出て、胸までの葉が足首までの高さになった。目の前の草がいびつな円状に踏みしだかれ、ちょっとした場所が作られていた。きっと上空から見れば小さな小さなミステリーサークルに見えるだろう。  その円の端に、ダンボールでできた家があった。やはり物音で勘づいたのだろう。その住人が箱の穴から顔を出している。小汚い恰好の、中年の男だった。  その額に×印の入れ墨がしてあるのを確認して、俺達は無言で顔を見合わせ、うなずいた。  俺達の手にある武器に気付いたか、男は外へ逃げ出した。そして全力で土手を登っていく。  その姿に眠っていた狩猟本能とやらが刺激されたのだろう、俺達は雄叫びをあげてその後を追った。  ちょうど自転車に乗った警官が、土手の上を白い自転車で走ってくる所だった。 「助け……助けて!」  恐怖と息切れで途切れ途切れに男は警官に訴えた。バカな奴だ。自分が何者か忘れているのだから。  警官は男の×印を見ると、顔をしかめ、腕をつかもうとする男の手を振り払い、何事もなかったように走りだした。  その時の男の顔のおもしろさったら!!  笑いながら、なーさんが鉄棒で男を突き倒す。いきなりとどめを刺したらつまらないから、俺は肩にナイフを突き立てた。  男はお化け屋敷のお化けのように悲鳴をあげた。
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