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人権剥奪刑が施行されたのはもう十年も前の事だ。強盗殺人、連続殺人、誘拐殺人。そんな極悪非道な犯罪を犯した者は、額に×を入れられ、放逐される。この×がつけられた者には、一切の人権が認められない。凶悪犯罪の増加を食い止めるため、そして何より厳罰化を望む民意に沿った施行だった。他人の人権を散々踏みにじった者でも、その本人の人権は保障される。今までのそんな制度がおかしかったのだ。
だから、どんなに訴えてもこの男を警官が助けるはずはなかった。俺達がやっているのはまったくの合法なのだから。
アマミが太ももに銃を突きつけた。
「おい、それ改造モデルガンか? 銃の改造って違法だろ」
咎めるような俺の言葉にアマミは肩をすくめる。
「まあね。さっき警官に見つからないように必死に隠したよ。でも、人を撃ったわけじゃないから大して罪にならないんじゃね?」
意外と重たい音がして、男の足に穴が開いた。
男が吐いたあぶくに、俺達は笑い声をあげた。こいつが何をしたか知らないが、額に×がある以上、こいつも被害者の命乞いを聞かず、無残に殺したに違いないのだ。俺達になにをされても自業自得というものではないか。
こいつが結構しぶとかったのか、俺達の痛めつけ方がよかったのか、死んだのは昼になってからだった。
それから、数日たって、警官が俺の家にやってきた。
「逮捕? だって、あいつは人権剥奪されてたんだろ! つまり人間じゃない! 殺しても何もしても罪にはならないはずだ!」
俺がそういうと、警官はどこか気の毒そうにいった。
「いや、それはそうなんだけどね。意外な抜け穴があったんだ」
「ぬ、ぬけあな……?」
嫌な予感に、嫌な汗が流れる。胸が押さえつけられたようになって、まともに息ができない。
「そう、あいつは人権が剥奪されて、人間ではなくなっていた。でも、それではあんまりだと思ったんだろうね。親にペットの『犬』として登録されてたんだ。もちろん、普通の人間にはそんな事はできないけど、あいつは法律上人でなくなったからね」
「い、いぬ……」
「もっとも、親と一緒に暮らしていたわけではないようだけれど。なんというか、たとえ人ではなくても公式の書類で存在を残してあげたいというせめて親心だろうね」
だとしたら、俺は犬を寄ってたかってなぶり殺したことになる。
「で、でも俺達は人間ですよ。犬の命と同等なわけないでしょう……」
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