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さてこの『明洞庵』と呼ばれる古道具屋。一体いつからそこに建っているのかというような外観である。雑居ビルや近代風の建物が列をなす中、幽玄とそこに佇んでいるのだ。柱や梁が醸し出す風格は、十年やそこらの年季ではない。見れば誰でも、この店ひとつが銘もなき名品なのだと分かるはずだ。
狭い店内に押し込まれるように陳列される珍品の数々。それを見張るでもなく番台に埋もれる老店主は、飴色に輝くパイプ片手に夕刊を覗き込んでいた。
この雰囲気。
すべてが島村を満たしてくれている、これこそが好事家のあるべき姿であると。
日頃社会で浴びてしまった俗世の垢を、いざここで洗い流さんとばかりに目端を利かす。
鉄瓶に小さな階段箪笥、杉の木で出来た手あぶり火鉢……。
次々と現れていく名品に心をときめかせていく島村であったが、イマイチ「これ」と呼べるような品はない。かれこれ小一時間は眼福にあずかったことだし、そろそろ帰ろうかと重い腰を上げたときだった。
「なんだこれ?」
それを見つけた島村は、思わず声を上げてしまう。
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