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木管とでも呼べばいいのか、大きさにして両手に収まるくらいの円筒形をした木製の品物。ずんぐりとまるで賞状を入れる筒のような太さであり、またその外観には寄木細工のように複雑怪奇な模様が施されていた。
こんな物、この店にあっただろうか?
島村はしばし記憶を手繰るが、結局思い出すことはできなかった。
「おじさん。これちょっと触らせてもらってもいいですか」
老店主は鼻の上にチョンと乗せた眼鏡をずらして、小さく肯いた。顔全体を縦に伸ばすようにしてこちらを覗き込む様子は、まるでラクダのようである。
手にした木管は思いのほか軽く、今日びのケータイよりちょっと重い程度。木製でありながらその手触りは、なめしたての革のようだった。
「ん? これは動く……ぞ」
表面に細工された不思議な紋様を指でなぞると、わずかだが隙間ができる。それに気付いた島村は、自分の第一印象が間違いではなかったことを確信する。
これは寄木の細工箱と同じ……つまり木組みのパズルで構成された一種の宝箱であると。
ということは中には一体何が?
高まっていく島村の好奇心。目にした瞬間から彼は木管に魅了されてしまっていた。値札もろくに見ずそれを番台まで持っていくと、新聞を丁寧に折りたたんだ老店主は深いため息をひとつついた。
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