ゆびきりさん

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 ひとしきり目の保養を楽しんだ島村は、ひとまず夕食を済ませることにした。大学を卒業し社会に出て早二年。趣味につぎ込む費用を捻出するためには自炊が基本である。ましてや恋人までできてしまっては、楽とは言えコンビニ弁当などもってのほかだった。  まあどれもこれもうれしい悲鳴ではあるのだが。  といってもそこはそれ、独身男の料理である。食えれば何でもいいをスローガンに、焦げた玉子焼きをインスタントの味噌汁で流し込み、同僚の帰省土産である明太子でご飯を二杯平らげた。  そして、いよいよ謎の木管との再会である。興奮に打ち震える両手でそれをすくい上げると、表面に施された寄木風の紋様を指でなぞった。木管はわずかにカチャカチャという音を立てる。やはりこれは組み木の立体パズルの要領で分解できる類のものらしい。正しい手順でピースを組み直していけば、いずれ中に入っているだろう『お宝』との対面できるはずだ。  しかし通常の細工箱とは違い、縦横斜めの平面的な移動に加え、円筒形であるこの木管には回転方向のピース移動も考えられる。難易度もおそらく数倍はあろう。  ダメで元々。  島村は軽い気持ちで木管をいじり始めた。 「お?」  パズルを解き始めて数分。木管の一部が紋様にそってスライドするのを発見する。  さらにその移動をきっかけとして、次々とナンバーパズルの要領で紋様が変化していく。十手、二十手、三十手。恐ろしいほどに入り組んだ構造は、簡単に分解されるのをよしとしない。  島村も当然やっきになる。気がつけば時刻はすでに深夜を回っていた。  明日も仕事である。悔しいがそろそろ寝なくてはいけない。島村は最後に、これでもかという思いを込めて手に力を入れる。  するとどうやったのか。  木管はまるで最初からそうであったかのごとく、バラバラになった。もはやそれがどう組まれていたのかさえも不明なほど、数十種類のピースへと分解してしまったのだ。  あまりに突然のことに、島村はしばらく放心してしまった。  そして、ふと我に返り。  中に入っていただろう『お宝』を探し始めた。我ながら最後の一押しには力が入っていた。もしかすると箪笥の裏にでも飛んでいってしまったのではないかと島村が焦燥に駆られていると、足元に長方形の小さな箱が落ちているのを見つけた。
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