ゆびきりさん

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 拾い上げたそれはよくある木製の箸入れのようだった。ふたの部分がスライドして開くアレである。大きさからいっても木管の中にあったのはこれに違いない。そう見当をつけた島村の胸には、かつてないくらいの感動が込み上げていた。  中身は宝石だろうか、それとも隠れキリシタンの十字架だろうか。もしかするともっと凄い発見があるかもしれない。  島村ははやる気持ちを押しとどめて、ゆっくりと小箱のふたをスライドさせていった。  すぅーっと開いていく木製のふた。  ろうそくの炎が揺れるぼんぼりの灯りは、途絶え途絶えに小箱の中を照らしていく。  最初は長い勾玉かと思った。光り輝く上下に並んだふたつの勾玉が、互いに身を寄せ合って小さな箱に収まっているのかと。次に、それには節が付いているのが見えた。枯れ木のようなしっかりとした節目だ。ぼんぼりの灯りに照らされて、ほんのりと色付いているようにも感じられた。  そして最後に光り輝いているのが爪だと分かった。中にあったのは人の指。 「ひぃぃっ」  島村は驚きのあまり、それを畳の上に落としてしまう。しかし、腐ることもなくどす黒く変色した二本の指は、しっかりとお互いに絡みついたままゴロンと畳に転がる。島村はその場から逃れようと居間のほうへ必死に這い寄るが、金縛りにあったかのように身体の自由が利かない。叫びたくとも声が出ず。普段なら聞こえるはずの隣室からの騒音も聞こえない。二年間慣れ親しんだはずの我が城が、まるで異界だった。  言い知れぬ恐怖と緊張の中で、島村は意識が遠のいていくのを感じた。しかし、いまの状況では逆に救いであるとも言える。この窮地から脱し、何事もなかったかのように朝を迎えるためのシークエンス。頼む、このまま――。  島村は忍び寄る恐怖に身をゆだねた。だが彼の願いは儚く消える。  コンコン  誰かが部屋の戸を叩いている。気のせいかとも思ったが、やはりもう一度コンコンという戸板を叩く音はした。不思議なことにその音を聞いた瞬間、島村の金縛りは解けていた。念のため、あーあーと声も出してみたがちゃんと出る。意を決して背後にある和室をねめつけた。だがぼんぼりの灯りは消えており、中の様子を窺い知ることはできない。  コンコン  何度目かの戸を叩く音。時刻は深夜二時。人が尋ねてくるような時間帯ではない。 「だ、誰ですか」
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