ゆびきりさん

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「ふふふ。でも、もう大丈夫みたいね。今度はいい夢を――」  女性はそう言って彼の前から去ろうとしていた。 「あのっ」 「はい?」 「もうすこしお話できませんか。ちょっと今晩はひとりでいたくないんです。もの凄くその……恐ろしい夢を見まして……」  島村はさっきまでろくに顔も知らなかった階下の住人を部屋に招き入れる。普段であればそれがどんなに軽率なことかも理解できただろう。しかし、女性のほうも彼の様子から何かを感じ取ったのか、意外にもすんなりと島村の願いを受け入れてくれたのである。  そして心を落ち着かせるようにして、炭を焚き。自慢の火鉢で湯を沸かし始めた。 「これがその不思議な木管?」  火鉢に掛けた鉄瓶が鳴き始めた頃、女性は和室へと足を踏み入れた。なぜか四つん這いの姿勢で、のそのそと。突き出された尻を前に、島村は目のやり場を失う。 「全然普通だし、恐くもないんだけど」  と、いつの間にか元の姿に復元されている木管を手に、彼女が微笑む。「そんな馬鹿な」と驚いた島村は、お茶を淹れるのもそこそこに、彼女からひったくるようにして木管を手にした。 「あれ? あれ?」
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