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「じぇん……つー?」
俺は彼が発したその名を思わず呟いた。
そんな俺の気の抜けたリアクションに原は思い出したように「そっか」と手を叩く。
「ダイチ君は転校してきたばかりだからジェンツーさんにお会いするの初めてなんですね。ジェンツーペンギンのジェンツーさんです。仲良くしてあげて……」
「いやいやいや! ちょっと待て!! なんだよジェンツーペンギンって! てかジェンツーさんってなんだよ!」
なんの疑いもなく説明してきた原に思わず捲し立てる。
だが、原はきょとんとした様子で持ち前の大きな目をぱちくりさせた。
「ジェンツーペンギンですか? 『ジェンツーペンギンとはペンギン科・アデリーペンギン属に分類されるペンギンで、両目をつなぐ白い帯模様が特徴の中型ペンギンである』ってうぃきぺでぃあ先生が言ってましたよ?」
「そこじゃねえよ! なんでこんなところにペンギンがいるんだってことだよ!」
ボケなのか本気なのかわからない原につい大きな声をあげる。
廊下に俺の声が響く中、原は引き攣った笑みを浮かべながら「まあまあ、落ち着いて……」と俺をなだめた。
ペンギンは俺の声に驚いたようにぴょんと飛び上がり、パタパタと足音をたてながら俺から離れた。
「ほら、ダイチ君の声が大きいからジェンツーさんも驚いて行っちゃったじゃないですか」
ペンギンはぺちぺちと音を立てながら急ぎ足で廊下を歩いていく。
怯えて逃げ出していくペンギンに原は気の毒そうにしていたが、奴に驚かされたのはこっちのほうだ。
なんだかこの一瞬で一気に体力が奪われてしまった。
けれども文句を言う相手もいなく、ため息が無意識のうちに出てしまう。
呆れた表情を浮かべていると、原はふと自分の腕時計を見た。
「あ、もうチャイムが鳴りますよ。教室に行かないと」
原は「ダイチ君も」と俺を手招きしながら、小走りで廊下を走り出す。
彼の言う通り、あと5分もすれば予鈴のチャイムが鳴るだろう。
これで席についていなかったら、担任の"カクガリ"が「おそーい!」と馬鹿でかい声をあげるだろう。
担任が喚くところを想像したら、余計に疲れてくる。
「待てよ原―! 置いていくなよー!」
先に行く原の背中に声をかけながら、俺も駆け足で彼の後に続いた。
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