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「もう、騒々しいわ……。それに、紛らわしいことしないでくださる?」
神宮寺は眉をひそめながらも、相変わらず見下したように俺に言ってきた。
「行きましょう」
そうして彼女は七緒と赤い眼鏡の女を先導するように歩き出す。
立ち去っていく神宮寺たちを見ながら、立花木は「ふう……」と安心したように息をついた。
「サンキュー。立花木のおかげで誤解が解けたわ」
本当に立花木がいなかったらどうなっていたことか……想像しただけでぞっとする。
これはもう"トイレのはなこさん"よりも怖い。
「いいよいいよ。昨日は良いもの見させてもらったし、そのお礼って奴だよ」
立花木は爽やかに笑う。
その言葉の意味はさっぱりわからなかったが、すぐに立花木は「じゃ、またな」と別れを告げてきたので、それ以上のことは訊けなかった。
それにしても、いらんアクシデントに巻き込まれしまったせいで休み時間も残りわずかになっていた。
「……呼ぶのはまた今度にするか」
そうぼやきながら、そっと左耳を触れる。
だが、ふと顔を上げると、神宮寺と七緒と共に去ったと思っていた赤い眼鏡の女が俺を待つように立ちはだかっていた。
赤い眼鏡の女は微笑んだと思うと、ゆっくりと俺に近づいてきた。
不自然に俺の右側についた彼女は、ポンッと俺の肩を叩く。
「今日の放課後に食堂のある中央館で待ち合わせましょ……良いものを見せてあげるわ」
顔を近づけてきた彼女は、俺に耳打ちする形でこう告げてきた。
彼女のその対応に俺は思わず固まった。
だが、彼女は涼しげな表情のまま、何も言わず俺を横切った。
「おい! お前!!」
咄嗟に呼び止めると赤い眼鏡の女はゆっくりと振り向く。
「お前……なんでわかったんだよ……」
だが、彼女はうっすらと笑った後、赤い眼鏡をクイッと上げてこう言った。
「相手に聞こえていなきゃ、耳打ちの意味もないでしょ?」
そんな意味深な言葉を告げると、彼女はまた徐に歩き出す。
「ちょっと待てって!」
けれども、どんなに声を荒げたって、もう彼女は振り向こうとはしない。
取り残された俺は彼女の背中をただ呆然と見つめることしかできなかった。
――もしかしてあいつ、"あのこと"に気づいているのではないか。
そう考えると、途端に嫌な予感がした。
「放課後……中央館……」
赤い眼鏡の女に脅威を感じながらも、俺は彼女の言葉を反芻するようにそう呟いた。
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