2:月と百目鬼。

2/15
114人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
放課後の中央館は購買を利用する生徒はいるものの、昼休みの賑わいはなかった。 そんな中、赤い眼鏡の女は壁際に背中を預けながらぼんやりと窓の景色を眺めていた。 「よかった。来てくれなかったらどうしようかと思ったわ」 俺の存在に気づいた彼女はそう言うが、澄ました表情から心配していないことはわかっていた。 「あんな気になること言われたら行くっきゃないだろ。で、えっと……」 名前を呼ぼうにも出てこなくてつい口籠ると、彼女は「え……」と意外そうな声をあげる。 「もしかして……私の名前、覚えてないの?」 「しょうがないだろ! まだ転校してきて2週間も経ってないし!」 「それもそうだけど……よく名前も覚えていない人についてこようと思ったね。まあいいわ。私は魚槌(うおつち)アマネ。改めてよろしく、安平ダイチ君」 そう言いながら魚槌アマネは赤い眼鏡に触れながら口角を上げた。 "魚槌"と聞いて最初に過ったのはまだ見ぬクラスメイトの"魚槌ヒビト"だった。 「お前と不登校の生徒の奴って、なんか関係あるのか?」 「ヒビトは私の双子の弟よ。それに、あの子も一応、ちゃんと学校に来ているわ。ただ……今はアルバイト中なの」 「アルバイト?」 「すぐにわかるわ」 彼女の意味ありげな発言に突っかかってみるがアマネはそれ以上のことは教えてくれなかった。 「さ、行きましょ」 「行くって、どこにだよ」 「いいからついてきて。百聞は一見に如かずって言うでしょ?」 そう言ってアマネはスタスタと早足で先陣を切っていく。 けれどもアマネの行く先は生徒たちが誰も近づかないような廊下の奥だった。 「あ、おいって!」 アマネを呼び止めようと手を伸ばしたが、アマネは振り向く気配はない。 アマネが黙々と進んでいくので、俺も仕方がなく彼女の後を追った。 やがてアマネは一番奥にある小さな扉の前で立ち止まった。 倉庫か配管室のような扉だが、彼女は迷うことなく扉のドアノブを回す。 「おい、勝手に入っていいのかよ」 そう尋ねるがアマネは「私はいいのよ」と淡々とした様子で返した。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!