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地下室の一件から一夜明けた放課後。
原が体調不良のため休んでいたということもあり、一人淋しく食堂で過ごしていた。
原は大病を患っていたことがあったらしく、今でも時折体調を崩す。
一時期入院もしていたようで、そのせいで出席日数も足りず、留年を繰り返しているらしい。
――実はボク、20歳なんですよね。
以前原はそんなことを物寂しげに言っていた。
まあ、原は顔が整っているし、そもそも20歳にも見えなかったから驚いたっちゃ驚いたが、あいつが年上だろうがタメだろうが、正直俺にとってはどうでもいい。
ただ、原なら"厠の神"について何か知っているのではないかと思った。
だから、昨日のことも含めて原に色々と訊きたかったのだが、どうもタイミングが悪い。
アマネにも訊こうと思ったのだが、彼女は「さあ?」と涼しい顔をするだけで何も教えてくれないし、ヒビトは当然のように今日も教室に来ない。
宮野先輩は何か知っていそうだが、他に知り合いがいない3年教室には近づきづらい。
「明日、原の奴来るのか……?」
ぼんやりと窓を眺めながら購買で買ったパンを口に入れた。
――黒い影が俺に近づいているのも知らずに。
「そんな食い方で、本当に美味しいと思っているのか?」
急に聞こえたその低い男の声に、俺は驚いて飛び上がった。
同時にパンを喉に詰まらせ、呼吸ができなくなるくらい噎せた。
「はは。悪かったな。驚かせて」
頭上から男の笑い声がする。
苦しくて涙目になりながらも、俺は徐に顔を上げた。
「う……」
その声の正体に思わず顔をしかめる。
そこにいたのはダークスーツを着た例の調理人だった。
「えっと……沢木……さん?」
俺は恐る恐る彼の名前を呼ぶ。
「ほう。転校生にまで名前を知られているなんて俺も有名になったもんだな」
沢木さんはにんまりと笑う。
その顔も何か企みでもあるような表情で背筋が凍った。
やべえ。
俺、この人に目をつけられたか。
というか、なんでこの人ダークスーツ着てるんだ?
めっちゃ目立つし、むしろ怖い。
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