2:月と百目鬼。

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沢木さんに言われて中央館前にある桜並木へ行くと、まだ用務員さんとペンギンはそこにいた。 窓から見た時はわからなかったが、用務員さんは20代後半か、思ったより若い人だった。 ただ、髪は長めのくせ毛でぼさついており、肌も俺より白い。 黒縁眼鏡の奥にある切れ長の目にも生気はなく、背は高く見えるが猫背で、ひょろっとした細身の体のせいでどこか頼りなく見える。 「なあジェンツー……もう諦めたらどうだ?」 用務員さんは足元でぴょんぴょんとジャンプするペンギンに呆れるようにぼやく。 「それくらいまた作ってやるから」 だが、用務員さんの言葉を理解しているのか、ペンギンは「イヤイヤ」と言うように首を横に振った。 「あの、どうしたんすか?」 声をかけると用務員さんは「ん?」と徐に振り向いた。 用務員さんに釣られるようにペンギンも俺を見てくる。 「……気にするな。こっちの話だ」 だが用務員さんはすぐに視線を戻して俺をあしらった。 ペンギンもおどおどしながら用務員さんの足元にしがみつく。 けれども俺が気になるのか、ペンギンはつぶらな瞳でこちらを見てくる。 そんなペンギンの視線に戸惑いながらも、俺は彼らが眺めていた木を見上げた。 そこには端に白い紙がついた紐が垂れた赤い風船が木の高いところに引っかかっている。 「もしかして……あれを取りたいんすか?」 風船を見上げながら用務員さんに訊くと、彼はばつが悪そうに俺からそっと目を逸らした。 「あんなものまたあげるのに、あいつはあの風船がいいんだとよ」 用務員さんはため息をつきながら木に引っかかった風船を見つめる。 どうやら用務員さんがくれたあの風船をペンギンが手を離してしまったようだ。 運よく木に引っかかったはいいが、ここから風船まで高さは3m近くあるだろう。 用務員さんも確かに背が高いほうだが、猫背のせいでもっと低く見えるし、彼がジャンプしても届かなさそうだ。 ペンギンは論外だ。さっきからジャンプしているけど、5cmくらいしか跳べてない。 でも、俺なら腕を伸ばせばなんとか届きそうだ。
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