3:きこえる。きこえない。

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――初めての全国大会。 先輩たちが一丸となって確実に点を決めていく。 一回戦は接戦の末に見事に勝ち取り、俺たちはさらに注目されていた。 このままなら、もしかして優勝もできるかもしれない。 コートに立つ先輩たちの活躍を見ながら、俺はそんな期待もしていた。 1年生らしい、馬鹿げた期待だった。 来たる2回戦目は去年の優勝校だったというのに。 圧倒的だった。 サーブの角度がえぐいし、スパイクのパワーだってまるで雷が落ちたようにコートに刺さる。 見事なコンビネーションと素早いボールさばきで、反応すらできない時もあった。 そして瞬く間に点が取られ、何もできないまま相手側のマッチポイントとなった。 2セット先取されての、5対24。 奇跡でも起きない限りこの点数差を覆すことはできない。 「ここまでか」 俺たちの試合を見ていた誰もがそう思っていたはずだ。 それでも俺は諦めなかった。 ここで終わったら、先輩たちも、俺の試合も終わってしまう。 せっかく手に入れたチャンスを易々と逃してたまるか。 そんな闘志が俺の中でメラメラと燃えていた。 鳴るホイッスルと共に、相手がサーブを打つ。 サーブを目で追った途端、ボールは天高く飛んだ。 先輩が必死に腕を伸ばして、相手のサーブを受けたのだ。 だが、触れることで精いっぱいで当たりどころが悪かったのか、三段攻撃する間もなくボールは相手コートに飛んだ。 相手のチャンスボールだった。 すぐさま相手側のトスが上がり、相手のアタッカーが高くジャンプした。 こちらもブロックのために飛んだが、選手の身長の高さも相まってまったく意味を成していない。 ――あ、終わった。 先輩たちのそんな心の声が聞こえた気がした。 それでも、俺は諦めなかった。 ここで動かなければ一生後悔すると思った。 こんなところで終わらせたくない。 だから俺はボールに向かって腕を伸ばした。 「安平!!」 誰かが俺の名前を呼んだが、その声ももう届いていない。 それが俺の危機を察してだというのに。 ふと顔を上げると、目の前にボールがあった。 反射的に頭を避けたが、その瞬間に左耳に破裂音が聞こえた気がした。 それと同時に世界がぐるっと回り、視界が真っ白になった。 ただ、遠退く意識の中、ホイッスルの音だけがぼんやりと聞こえていた。
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