3:きこえる。きこえない。

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目を開けると、ベッドに横たわっていた。 どうやら医務室に運ばれたらしく、白衣を着た女の人がせかせかと動いていた。 ふと横目で見ると副顧問の先生が俺の顔を見て安堵した表情を浮かべている。 けれども未だに頭がくらくらしていて、彼の言葉もいつもより上手く聞き取れなかった。 「きっと勢いよく頭を打ったからだろう。吐き気とかはないか? 他に痛むところは?」 先生は心配そうに俺の容態を訊くだけで、試合については何も言わなかった。 でも、彼が言わなくてもなんとなくわかっていた。 「大丈夫……です」 そう答えてみたはいいものの、俺の声は魂が抜けていた。 しかし、起き上がろうとしても頭が揺れるような眩暈がしてその場から動けなかった。 そんな俺の様子に先生はすぐさま俺を病院に連れて行った。 けれどもボールがぶつかった衝撃で左耳の奥まで痛みがあったが、MRIの検査をしても幸い脳には異常が見受けられなかった。 「他に気になるところはあるかい?」 医者は俺に気遣うような優しい声で俺にそう尋ねた。 それでもまだ途轍もない眩暈がして、彼の声も上手く聞き取れなかった。 不意に痛む左耳に触れる。 その仕種で医者は思い当たる節があったのか、俺に耳鼻科へ行くことを促した。 耳鼻科の検査はMRIを受けた時よりも検査が長く感じた。 問診から始まり左耳をじっくり見られ、レントゲンまで撮られたが、診察結果はとてもシンプルだった。 鼓膜外傷。 あの殺人的なスパイクを受けたことにより、鼓膜が破裂していたのだ。 しかも俺の場合、かなり損傷が激しく耳小骨までダメージがいっていた。 この強い眩暈もそのせいだと医者は言う。 「もしかしたら、後遺症が残るかもしれないよ」 医者は真顔でそう言っていたが、その声ですら聞き取りにくかった。 このまま病院に通うにも手術をするにも、全国大会の遠征先ということもあり、治療は帰宅してから行うこととなった。 家に帰ると空気が重たかった。 母さんは「おかえり」と笑顔で迎えてくれたが、目元は赤かった。 俺がいないところで泣いたのだということは、言われなくてもわかっていた。 一方親父は今回のことについて何も言及してこなかった。 ただ、黙ったまま冷たい目で俺の左耳を見ていた。 親父だって医者だから先生からの説明でとうの俺よりも左耳の現状がわかっていたのだろう。 だからこそ地獄だった。
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