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――翌日の放課後。
「どうしたのよ。あなた、最近元気ないわよ」
机の上で突っ伏していると横から原らしき声が聞こえた。
ふと顔を上げると心配そうな表情をした原がいた。
ただ、顔つきもいつもより愁いを帯びていたし、口調も違う。
「お前も……"初めまして"か?」
そう尋ねると原はうっすらと微笑んだ。
「言われてみればあなたの前に出るのは初めてかもしれないわ」
その笑顔もいつもの原のような穏やかで温厚そうなものでなく、大人の色気を醸し出していた。
「あんたの名前は?」
「へえ……あなた、あたしに興味あるの?」
「ちげえよ。全員"原"じゃわからなくなる」
「ふふ……冗談よ。あたしは時雨。よろしくね」
「時雨な……で、いつから入れ替わってたんだ?」
「あら、今日は驚かないのね。といっても今日は最初からあたしだったのよ。実はあの子、まだ調子戻ってないの。でも、このままだと出席日数が、ね」
時雨は自分の席に座り、肘をつきながら俺を見つめる。
てっきり今日一緒にいたのはいつもの原だと思っていただけに、少しだけ驚いた。
口調もいつもの丁寧だったし、一緒にいて何も違和感がなかった。
けれども時雨いわく、全てが彼女の演技だったらしい。
「原を演じてたのなら、なんでやめてるんだよ」
「いいじゃないの。もう放課後だし、それに、あなたなら本当のあたしを出してもいいかなって思ったの」
そう言う時雨は艶やかな眼差しで俺を見つめる。
朽葉がドエス野郎だとしたら、時雨は大人のお姉さんといったところか。
「俺もそろそろメモしなきゃ、わやになりそうだな」
「わや?」
「ぐっちゃになるってことだよ」
笑ってはみるものの、多分半笑いだった。
だから時雨から見たら俺の笑みは冷ややかだっただろう。
それでも彼女は「あなたもそんな顔をするのね」と口角を上げた。
「でも、禅も心配していたわよ。あなた、朽葉に無理矢理『厠の神』を呼ぶの付き合わされていたでしょ。あの子後から自分の手帳を見てびっくりしたんだから。『ダイチ君に謝らないと……』って気にしていたけど、その後すぐに体調崩しちゃったからね」
「ああ……いいよ。全然気にしてないから」
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