3:きこえる。きこえない。

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「ど、どうした! 大丈夫か!?」 突然そんな声を出すものだから俺も慌ててしまった。 けれどもハナは弱弱しくも「だ、大丈夫……」と答えてくれた。 「び、ビビった~。急に変な声出すなよ!」 「ごごごめんなさ~い」 左耳からハナの申し訳なさそうな声が聞こえる。 きっと慌てた様子で両手を合わせているのだろうが、残念ながらその姿も視えない。 姿が視えないとハナの表情も判断できないから、声だけのやり取りはなかなか厄介だ。 この大変さに思わずがしがしと短い髪を掻くと、ハナの「クスクス」と笑う声が聞こえた。 「ダイチ君、ちょっと元気になった気がする」 「い、いつも通りだよ!」 けれど、面と向かってそう言われたらなんだか恥ずかしくて思わずあしらってしまった。 「で……俺になんの用だよ」 不貞腐れながら窓の外を眺めると、閉じていたカーテンがスッと開かれた。 「だ、ダイチ君とお話がしたいなあって思って……」 姿は視えないが、きっと窓の縁にでもハナが座っているのだろう。 「話すっていっても、俺と何を話すんだよ」 「え、えっと……なんか?」 「なんもないのかよ! わやだなお前!」 咄嗟に突っ込むと、ハナは「わや?」と不思議そうな声をあげた。 「『やべえ』ってことだよ。北海道弁」 「北海道弁……ダイチ君、北海道の言葉知ってるんだ」 「知ってるも何も生まれも育ちも北海道だよ。ただ、親の仕事の都合で最近この学校に転入してきたってだけ」 「へー。そうだったんだ」 北海道というのが新鮮なのか、ハナは興味津々に俺の話を聞いていた。 「北海道で育ったからダイチ君の肌は白いのかな」 「あんまり関係ないんじゃね? 俺の周り結構肌黒い奴いたぞ」 「え、そうなの? でも北海道いいなー。雪、見てみたいなー」 雪を想像しているのか、ハナの声は楽しげだ。 「ハナはどこ出身なんだ? 東京?」 だが、俺がそう答えると途端にハナは「えっと……」と口籠った。 やがてハナは照れたように俺に言う。 「わ、忘れちゃった」 ただ、拍子抜けのその答えに俺も思わずがくっと肩を落とした。 「忘れたって……幽霊ってそんなもんなのか?」 「よくわからないけど……気づいたらこの学校にいたの」 気後れしながら言うハナに俺はテキトウに「ふーん」と相槌を打つ。
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