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「それに私……幽霊じゃなくて神様だし……」
「は? 神様? お前が?」
「う、うん……本当は"厠の神様"なんだけど、『トイレに幽霊がいる』っていう噂だけが独り歩きしちゃって気づいたら幽霊のほうで広まっちゃって……」
自信がないのか、ハナの声はどんどん小さくなっていった。
「"厠の神"ねえ……」
といっても、いくら目を凝らしてもハナの姿は視えないし、"ドーメキ"で見たハナの姿も地味目な女子高生だった。
百歩譲って幽霊だろ。
「ていうか"厠の神"なら普通トイレにいるもんじゃねえの?」
「え?」
素朴な疑問をぶつけると、ハナはとぼけた声をあげる。
「確かにいつもは3階の女子トイレにいるけど……私も校内を散歩するよ? だって、ずっとトイレにいるのも暇だし……」
「ま、まあ、そりゃそうだよな」
言われてみれば"ドーメキ"に映った場所は情報室の映像だった。
アマネも「霊体だから、たまたま電子機器に干渉したんでしょうね」も言っていたし、彼女もヒビトもまったく驚いていなかったから、もしかしたら過去にも何度かハナの姿が"ドーメキ"に映ってしまっていたのだろうか。
「もしかして、教室とか普通に入ってくるのか?」
「え? うん。勿論」
あっけらかんと言うハナの言葉にぞっとした。
本当は自分が視えていないだけで、得体の知れないものはどこにでもいるということを改めて知らされた気がした。
それでもだ。
「……ハナって本当に幽霊らしくないよな」
「ゆ、幽霊じゃないもん……」
「へいへい。"厠の神"でしたな」
ハナも微かに抵抗してきたが、神様にしては威厳がないし、幽霊にしてはおどろおどろしさがない。
そう言うとハナは「そ、そうかな……」と照れた。
といっても、褒めたつもりはさらさらなかったのだが。
「……変な奴!」
「えぇ!? いきなり酷いよダイチ君!」
思わずそう言うと、ハナの嘆いた声が聞こえた。
そんな彼女の声を聞いているとなんだか面白くなってしまい、俺はつい大笑いしてしまった。
すると、ハナも俺に釣られるように笑いだした。
久しぶりに心の底から笑った気がした。
勿論おかしなことがあったら笑ったりはするけれども、いつも人の話をする時は聞き取ることに全力を注いでいたからこんなにリラックスすることはなかったと思う。
気負いなく話せる……こんな感覚、本当に久しぶりだった。
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