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――昨日の一件が嘘のように、今朝も教室内は騒がしい。
最早雑音にしか聞こえないクラスメイトの会話を聞き流しながら窓の外を眺める。
「ダイチ君……あの、ダイチ君?」
隣から俺を呼ぶ声が聞こえたので、ふと横を見た。
「おはようございます……えっと、お久しぶりです」
顔を上げるとそこには原の姿があった。
穏やかな口調からして、いつもの原のようだ。
「本当に久しぶりに会った気がする。もう体調は大丈夫なのか?」
「はい。ご心配かけました……それに、別のボク……朽葉が迷惑かけてごめんなさい」
原は申し訳なさそうに目尻を垂らす。
まだ顔色も悪いし、調子が戻っていないように見える。
けれども体調不良というよりは朽葉がやらかしたことについてへこんでいるように思えた。
「気にすんなって! 迷惑ってほどでもないしさ!」
肩を落とす原に俺は微笑みながら彼を慰めた。
それに、朽葉のおかげでハナのことがわかったんだし、原には感謝している。
……朽葉本人には口が裂けても言わないけど。
それにしても、ここ数日間の出来事を原に説明するには骨が折れそうだ。
そもそもハナのことを原が信じてくれるとも思えないし、その話をするには俺の左耳のことにも触れなければならない。
それはちょっと嫌だ。
原は友達だと思っているけど、友達だからこそ気を遣われたくない。
だから、ハナのことは俺の胸内にしまっておいた。
* * *
放課後。
普段一緒に帰る原も体調が優れないし、ハナのこともあるから彼には先に帰ってもらった。
周りのクラスメイトも部活動に行ったり、帰宅したりと一人、また一人と教室を出ていく。
ぼんやりとハナを待っていると、気づけば教室には俺しかいなくなっていた。
それを見計らうようにまた教室のカーテンが揺れ、窓から吹き抜けるような強い風が入ってきた。
どうやらハナが来たようだ。
「あの……ダイチ君」
左耳からハナの緊張した声が聞こえる。
「約束、守ってくれてありがとう」
「いいよ。俺もどうせ暇だし」
ふと顔を上げると窓が勝手に開いた気がした。
多分、また窓の縁にハナが座っているのだろう。
けれども、現れて早々にハナは「えっと……」と口籠る一方だった。
ただ「ど、どうしよう」や「聞いちゃっていいのかな……」など彼女の心の声は駄々洩れだ。
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