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「ーーだから、友達がいるのが羨ましい」
淋しそうに呟いたハナの声が耳に残る。
俺はハナにかける言葉が見つからなかった。
ハナのいう昔とは、一体いつの話なのだろう。
在学生の中でハナのことを知っている者は、いったいどれだけいるのだろう。
学校のシステムデータを管理しているアマネは知っているだろうけど、あいつのことだからきっと口外はしなさそうだ。
朽葉は中途半端にハナのことを知っていたけれど、あれもきっと他の生徒より長く在学しているからなのだろう。
なら、ハナのことを知っている人って――本当にいるのだろうか。
こいつがこんなに淋しがっていることを、気づいている人はいるのだろうか。
……やめた。
なんか、どんどん湿っぽくなってきた。
「……じゃ、ハナに自慢しようかな」
俺はポケットから自分のスマホを取り出し、そっと机の上に置いた。
「北海道にいた時の写真、一緒に見ようぜ」
俺はハナにそう笑いかけると、ハナは一瞬不思議そうな声をあげたが、すぐに「うん!」と返した。
俺の友達、というよりは、北海道の風景が珍しいのか、ハナはよく感嘆の声をあげた。
「凄い。やっぱり東京と全然違うね」
「まあ、こっちと違って何もないよな」
だが、どんなに俺がそう言っても、ハナはずっと「いいなー、いいなー」と呟いた。
そうこうしているうちにまた随分と話し込んでいたようだ。
そろそろ部活を終えたクラスメイトたちが帰ってくる。
「また、写真見せてね」
別れ際、ハナは俺にそう言って風に乗って去っていった。
俺たちの放課後のやり取りは明くる日も続いていた。
最初は一緒に写真を見たり、北海道にいた時の話をしていたが、日が経つに連れやがてハナも自分から話題を振るようになった。
たとえば、用務員さんの植えた花が好きでよく花壇まで見に行っているとか、ペンギンは可愛くてちょっと好きとか、どれもこれも他愛ないことばかりだったが、最初の頃に比べたらだいぶまごつかなくなった。
ただ、「なんで"厠の神"なんだ?」とうっかり訊いてしまった時、これまでの口下手が嘘のようにトイレの機能性や芸術性について語られてちょっと引いた。
その時はすぐにいつものハナに戻って「ごごごごめん!!」と慌てて謝っていたが、そんなハナがまた面白くてまた笑った。
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