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だが、謝ろうとしたその時、突然教室のカーテンが強く揺れた。
今まで凪のように静かだったのに、強い風が吹き抜ける。
「……今日は、もう行くね」
ハナのそんな淋しげな声が聞こえる。
「おい、待てよ!!」
俺は彼女を呼び止めようと、窓に向かって手を伸ばした。
だが風は強くなる一方で、ハナは俺の声に聴く耳を持たなかった。
「またね、ダイチ君」
ハナの声がどんどん遠くなる。
そして、風と共に消えていく――……
「ハナ!!」
俺の張り上げた声が教室に響き渡る。
しかし、いくら呼んでも誰も俺の声には応えてくれない。
まるで何事もなかったかのようにカーテンが静かに風で揺れるだけ。
最初からここには俺しかいなかったような、そう思わされるくらい粛然としていた。
誰もいない教室で俺はそっと左耳に触れた。
けれども俺の左耳はいくら耳を澄ましても何も聞こえることはなかった。
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