4:その目は逃さない。

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――昨日のことを思い返すと憂鬱になった。 「……大丈夫ですか? ダイチ君、最近元気ないですよ」 ため息をつく俺を見て、原が心配そうな表情を浮かべる。 「なんもだよ。気にするな」 その場しのぎではぐらかして見るが、原の気遣わしそうな表情は変わらない。 そんな悄然している俺とは裏腹に、廊下はやけに騒がしかった。 どうやら掲示板に何か貼り出されているようで、そこだけ人集りができている。 「一体どうしたんでしょう」 原もその掲示物が気になるようで、俺たちもその人集りに混ざって掲示板を眺めた。 掲示板に書かれていたのは新聞部が作った学校通信だった。 そこにはもうすぐ始まる高体連の意気込みや部活動の紹介が書かれたなんの変哲もないものだった。 だが、みんなが注文していたのはそこではなく、小さく書かれたコラムの記事だった。 その見出しを見て、俺は目を見開いた。 【幽霊? 情報室に現れた謎の少女】 記事には数日前にパソコン部で起こった怪奇現象の出来事が書かれていた。 一瞬にして消えた人影。 その場にいるはずのない女子生徒の姿。 そして、見たことのない赤いリボンがついた制服。 しかもそこには"ドーメキ"に映し出されたハナの姿がご丁寧にも時刻付で添付されている。 呆然と立ち尽くしていると、周りのざわめきから生徒たちの声が聞こえてきた。 「何これ、気持ち悪い」 「合成じゃねえの? こんな奴いるはずないじゃん」 「お祓いしたほうがいいんじゃない?」 「早く成仏しろよ」 彼らの言葉を聞いていると虫唾が走った。 普段こんな言葉なんて拾ってくれないくせになんでこういう時はちゃんと聞こえてくるのだ俺の耳は。 苛立ちを押さえこみながら、俺は記事の制作者の名前を探った。 誰がこの記事を書いたかなんて目星はついていた。 この写真を手に入れることができる新聞部はおそらく一人だけ。 宮野唯子。 記事の終わりにも丁寧な字で彼女の名前が書かれていた。 「宮野先輩……」 俺はぐっと拳を握りしめたまま、彼女の名前を呟いた。 そして弾けるように床を蹴り、そのまま勢いよく廊下を駆け出した。 「ダイチ君!?」 突然走り出す俺に原が驚いた声をあげたが、俺は振り向かなかった。
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