4:その目は逃さない。

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走った。 とにかく走った。 どんなに周りが俺に不審な視線を送ろうとも、先生が注意してきても俺は振り向かなかった。 3年教室が並ぶ廊下で俺は彼女の名前を叫んだ。 「宮野先輩いますか!?」 廊下中に俺の声が響き渡り、驚いて肩を竦み上げる先輩もいた。 中には俺に後ろ指を指し、コソコソと何か話す人もいたが、眼中にもない。 俺は教室を見回しながら彼女の行方を探った。 「どうしたんですか、安平さん」 そんな中、後ろから誰かが俺を呼んだ。 慌てて振り向くと、宮野先輩が小首を傾げていた。 「そんなに慌てて、私に何か用ですか?」 宮野先輩はあっけらかんとした様子で目をパチクリさせる。 俺は宮野先輩に駆け寄り、彼女の小さな両肩を掴んだ。 「なんでハナの……あの女の子のことを記事にしたんですか!?」 声を震わせながら必死に彼女に訴える。 けれども宮野さんは大きな瞳で俺を見上げるだけで、これっぽっちも表情を変えなかった。 むしろ澄まし顔で彼女ははっきりとこう告げた。 「なんでって……これがこの学校で起こった出来事だからですよ」 「なっ!?」 言葉を詰まらせる俺に宮野先輩はここぞとばかりに淡々と言葉を紡いでいく。 「だって、そうじゃないですか。パソコン部の部活中に幽霊が現れたという情報を手にしたからパソコン部に直接取材して、自分でも情報を探って、それでいてパソコン部からも公表の許可を得た。パソコン部だってあの幽霊の女の子の情報がほしいと言っていたんです。だから私はありのままのことを書いたんですよ。私は真実をみなさんに伝えただけなのにどうして安平さんが文句を言いそうにしているんですか? 安平さんのプライバシーを侵害したのなら、勿論謝りますし、記事も撤回します。その場合なら、理由を話してください」 彼女の言葉に俺は何も言えなかった。 ここで俺がハナのことを話したら、ハナに余計な詮索が行ってしまう。 だからこそ、下手に動くことはできない。 「……すいませんでした」 俺は彼女の両肩から手を離し、その場ですぐに頭を下げた。 けれども宮野先輩は何事もなかったかのようににっこりと笑った。 「安平さんもあの女の子のことがわかったら教えてくださいね」 その笑顔が俺にとっては恐ろしく、俺は尻尾を巻いて逃げるようにその場を去った。
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