4:その目は逃さない。

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――俺の願いとは裏腹に最近の放課後はいつにも増して騒がしく思えた。 確証なんてないのに、クラスメイトの笑い声が、全部ハナの話題に聞こえるのだ。 頭が重く、自分の席で突っ伏してただ時間が流れるのを待つ。 ハナは噂を察してか、あの日から姿を現さなかった。 こんな事態なら俺も帰ればいいのに、それでもハナのことを待っている自分がいる。 彼女に合わせる顔なんてないというのに。 パソコン部のせいでもない。 『ドーメキ』のせいでも、ヒビトのせいでもない。 宮野先輩のせいでもない。 ハナのせいでも、勿論ない。 たまたまパソコン部の部活中にハナの霊気が干渉してしまっただけ。 それでも、何もできない自分が情けない。 鬱々としているとやがてクラスメイトの声が遠くなった気がした。 窓からそよ風が吹き抜け、俺の短い前髪を靡かせる。 周りの連中もみんな帰ったらしく、いつの間にか辺りは静まり返っていた。 いっそのこと、このまま眠ってしまおうか。 瞼を閉じながら、そんなことを考えていると左耳が彼女の声を拾った。 「ダイチ君」 いつもより儚げなハナの声だった。 「ハナ?」 名前を呼ぶと風が強くなりカーテンが揺れた。 「そこにいるのか?」 ハナに尋ねると彼女は小さく「うん」と返事をした。 「今日は……お別れを言いにきたの」 消えかかるようなか細い声だった。 それでもハナの声はいつもと違い口籠ってなく、俺は彼女の言葉に息を止めた。 「まさか……あの記事のことか?」 尋ねるとハナの言葉が詰まった。 「……お前、泣いてる?」 ハナの姿が視えないことがもどかしい。 彼女がどんな顔をしているのかもわからない。 かける言葉も見つからない。 情けないくらい俺の無力さが浮き彫りになる。 それでもハナは声を震わせながらも明るい口調で紡ぐ。 「ずっと前にもこんなことあったんだ。あはは……私ってドジだよね。あの時もみんな私のこと『怖い』とか『気味悪い』って言ってた……」 そんな淋しく佗しそうな声から彼女が無理しているのが痛いほど伝わった。 「どうしていつもこうなのかな……私はただ、友達がほしいだけなのに」 頭に過ったのは記事を見て心ない言葉をかけていた生徒たちのことだった。 本当はずっと前からこの学校にいたのに、姿が視えた途端にこの扱いだ。 友達なんて、程遠い。
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