4:その目は逃さない。

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「ダイチ君……目、閉じてくれる?」 ハナは静かな口調で俺に請うたので、俺は二つ返事で了承した。 「……ありがとう」 彼女の声と共に俺の顔元に優しい風が吹く。 おそらく、彼女がそこにいるのだろう。 「また会える、おまじない」 ハナがそう言うと目元から温かみを感じた。 ハナが手をかざしているのだろうか。 この温もりが溶けてしまいそうなくらい気持ち良くて、このまま眠ってしまいそうだ。 ぼうっとする思考の中でも、思い出すのは彼女と過ごした日々のことだった。 きっかけは、彼女の声を聞いたから。 原に連れられて、クラスメイトの女子に絡まれて、アマネにヒビトのところへ連れてってもらって、そこでハナの顔を見て。 沢木さんに用務員さんのことを教えてもらって、用務員さんにハナを呼んでもらってそれから――… 出会うまでは随分と時間がかかったが、そこからの日々はあっと言う間だった。 でも、彼女と一緒に過ごした日々はどれも楽しくて、暫しの別れが胸が痛むほど淋しく思えた。 「ハナ……ごめんな」 ハナは俺のことを思って左耳のことを治そうとしてくれたのに、俺はハナに何もしてあげられなかった。 そう言うと彼女は穏やかな口調で「そんなことないよ」と返してくれた。 「……そろそろ行かなくちゃ」 彼女の声を合図に風が強くなる。 「今だけサヨナラだね」 彼女の声が遠くなる。 「ダイチ君……3つ数えたら、目を開けていいからね」 最後に告げた彼女の言葉は俺にはとても酷だった。 言われなくてもわかっていた。 「3……2……1」 きっと目を開けたら、彼女はもう――…… 先ほどまでの風が嘘のようにカーテンは音を立てずに揺れていた。 窓から見える空は夕日で赤く染まっている。 「……ハナ?」 名前を呼んで見回しても、彼女は返事をしてくれなかった。 粛然しきった教室の様子から、ここには俺しかいないことが嫌でもわかってしまった。 俺はなんとなしに窓を開けて外を眺めた。 窓からは本州独特の生温い風が入り、空は夕日で赤く染まっている。 俺は頬から伝う雫が止まるまで、じっとその夕焼け空を仰いでいた。
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