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しっかり食べなさい。残しちゃダメよ。
そんな目をした黒白ハチワレと茶色いシマシマに監視されつつ朝ごはんをペロリと平らげ、食後はその二匹をじゃらして遊んだり俺が構ってもらったり。
小さなボールをポンと投げるとココは犬みたいに走って取ってくる。もう一回投げてと言いたげな目でポトっと俺の手元に落とすから、要望通りもう一回投げるとまた犬みたいに走って取ってくる。
一方のキキはあのネズミ以外はほとんどおもちゃに興味がないようで、キャットルームから瀬名さんが持ってきてくれたグレーの生贄でビョンビョンじゃらした。棒の先に付いたネズミをあちこち動かしてみるのはいいが、キキの方が百倍は素早いからすぐに前足で捕らえられる。そしてぶっ叩かれて吹っ飛ばされる。
日当たりのいいリビングのラグの上でそうやってしばらく遊んでいた。でもやっぱり猫だから、あれだけ熱心に暴れていたのに急にプイッと興味が逸れる。
ココはボールを取りに行かなくなった。キキはネズミをつまらなそうに見下ろした。飽きてしまっても傍にはいてくれるようでラグの上にぽてっと横たわった二匹。
腕を伸ばしてキキココをモフる。ゆったりとした二匹の猫がゆったりと目を閉じたものだからこっちまで眠たくなってくる。
最適な空調を保たれた午前中の明るいリビングで、くぁっと大あくびが出るのも隠せない。
「人んちでこんなダラけてる」
「自分のうちだと思って寛いでくれ」
「部屋ない人が何を偉そうに」
それは住んでいる人がおっしゃることだ。
隣に座って一緒に遊んでいた瀬名さんの手に、キキとココがほとんど同じタイミングでしっぽをスリッとこすり付けた。マーキングとは少々異なる。この子たちが瀬名さんに向けるのは真っ直ぐな好意。愛情だ。
明るい掃き出し窓の向こうにはウッドデッキと庭が広がり、その光景を眺めながらほっとした溜め息をつきたくなってくる。
あたたかい。いい家だ。見栄えももちろんそうだけど、鳥の声がピチピチお届けされてくるこの環境はとても落ち着く。
ただ一つの気掛かりを除いては。
「……本当に明日の夜までご両親帰ってこないんですよね?」
「こない」
「妹さんは?」
「なおさら問題ない」
たしかに昨日も妹さんは滅多に帰ってこないと言っていた。
「瀬名さんより帰省頻度低いんじゃ家族が全員揃うことってあんまりない?」
「最近はねえな。あいつもたまに帰ってきてるようだが俺とは大抵行き違いになる。最後に直接会ったのは確か……ああ。ココと顔合わせした時だ」
五年半前。
「……そんな遠くにいるんですか?」
「まあまあ遠い」
「新幹線でどれくらい?」
「飛行機で半日くらい。アメリカだから」
「へえ。……え?」
「テキサスで不動産売ってる」
「…………」
思っていた答えとなんか違う。スケールが根本的に違った。海は海でも国を越えていた。
「おふくろに聞いた話だと今はラテン系のイケメンと付き合ってるらしい。まだ続いてんのか知らねえが」
「はぁ……」
「人生を無駄にしたくないならそんな女はやめておけと直接会って説得したい」
「妹さんと仲悪い……?」
「悪くはない。ただあの女の性根が腐ってるのを知ってるだけだ」
それは仲が悪いというのでは。
「何かあったんですか……?」
「何もない」
なんらかの出来事があったんだろうな。瀬名さんはちょいちょいトラウマが多そう。
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